Poem: ある移民の回想 (11.3.11)

キュレーター、エミリー・ウェイクリングさんからご依頼を頂き、「温情の地:震災から10年の東北(Compassionate Grounds: Ten years on in Tohoku)」に掲載頂きました。詳細:http://compassionate.gs/jp

 

ある移民の回想 (11.3.11)

 

妹はあの晩、歩いて帰宅した。

猫たちを連れ出し、

そのあと母のもとへ向かった。

2匹の猫を入れた籠は、

未了戯曲や詩を詰め込んだ

タグライン『収納ソルーション』とうたう

グレイズビルのあの建物に眠る

数々の箱より、遥かに重く、

いのち宿る。

大勢の人とともにひたすら線路沿いを歩いた。

数えてもわすれるほどの長い道のり。

いち、に、いち、に、いち、に。

大したことではないよ、

波に追われ、走った人たちを思うと、

と妹は語る。

 

しばらく電話が不通。

キャンベラ空港で芸人やクルーと

搭乗するとき、

タグライン『自宅のようなあなたのホーム』とうたう

パースの宿に到着したとき。

電話が鳴ったが、シドニーからだった。

『ニュースで聞いたけれど、

あなたの人たちは大丈夫?』

感謝のすべきなのに、

『事態はニュースの見出しどころじゃない。

私の人たちもあなたの人たちなのに』

と思ってしまった。

口調で感じたに違いない。

ごめんなさい。

 

妹の声がようやく届いた。

リハーサルの昼休み中、

タグライン『体験を楽しもう』とうたう

劇場裏のジャラー木の廊下。

行ったり来たりしながら、受話器越しに頼む、

非難出来るうちに離れて。

取り返しがつかない、爆発が起こる前に。

シドニーで母と猫たちと一緒に暮らそう。

『出て行ける人は出て行き始めているよ。

私は残る。ここで必要とされている。』と妹。

音響チェックが始まっていた。

いち、に、いち、に、いち、に。

 

 

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